〜第2話〜
ガタンゴトンッ…ガタンゴトンッ。
「成績1位か…どんだけ頑張ったらいいんだろう…。今まだ6位だもんなぁ…。」
−塾に向かう電車の中で、私は昨日の母親との会話を思い出していました。あのときは意地をはり、取ってみせますと言ったけれど、今の成績でも精一杯の私が1位なんて取れるわけがないのです。
ゾクッ
「きゃっ…!」
「…!?」
「やめっ!助けてっ!」
−考え事をしていた私は、知らないおじさんに身体を触られていました。
「っ!あんた、なにやってるんですかっ!」
「あんだ?てめぇは…!」
「…!?」
「痴漢なんて最悪なこと、繊細な女子高生にしてるんじゃないっ…!」
(本条さん…!?助けてくれたんだっ…!)
−体を触られた私を守るように前に立ちはだかってくれたのは、本条さんでした。
「っ…離せこのガキ!」
「…次の駅で一緒に降りて貰いますから。」
「……ぐすっ。」
「大丈夫…俺も一緒に降りるから。」
シューッ、ガタンゴトンッ…ガタンゴトンッ。
「ほら、おじさん。警察行きますよ。」
「警察だぁ!?ふざけんじゃ…!」
「君は危ないから、行って大丈夫だよ。あとは俺がなんとかするから。」
「え…?あ…はい。」
−私はそう言って、痴漢してきた男を強引に連れて行く本条さんを見ていました。
凛々しくてカッコイイ本条さんを見ていると自然に気が抜けていきました…。
カクンッ…。
「梨奈?どうしたの!?こんなところにへたりこんで…大丈夫?なんかあった?」
「…瑠美っ…。」
「梨奈…。とりあえず、移動しよう?梨奈ん家この近くでしょ?行こっ。」
「………うん。」
−私は立ち上がらせてくれた瑠美の胸に飛び込んで、涙を流した。初めて痴漢に体を触られた恐怖と…もう一つの想いに私は涙を流さずにはいれなかったのです。
私は瑠美に震えた体を支えられながら、家へと入っていきました。
カチャッ
「…お姉ちゃん?と瑠美さん…どうしたの?まだ塾の時間じゃ…!」
「雅菜…お…お母さんは?」
「もう帰ってるよ…やばいよバレたら。昨日の今日だよ?」
「雅菜?誰か来てるの?」
「お母さっ…!お姉ちゃんが、帰ってきてるの。」
「梨奈?今日は塾のはずじゃないの?」
「さぼったわけでは…ないです。」
(梨奈…まだお母さんとこんな感じなんだ…。どうしよう、なんて言おう…。)
「お母様…。」
「あなたは…梨奈のお友達の瑠美ちゃん?なんです?」
「今日は塾の授業が学校で既に理解しているところなので、塾お休みして、二人で今月末のテスト勉強をしようと話してここにこさせていただいたのです。」
「あら…そうなの?ならいいわ。雅菜、二人にお茶を用意しなさい。」
「はい。」
「瑠美…!ありがとう。助かった…。」
「えへへ。ウソついちゃったけど勉強してたら文句ないでしょ♪」
「んじゃお姉ちゃん、お茶もってくね♪コーヒー?紅茶?」
「紅茶二つで♪」
「OK!んじゃ紅茶持って行くねん♪勉強頑張ってー♪」
−瑠美に助けられて、部屋に行った私は本当に気が抜けたように倒れ込んでしまいました。
「おっと…梨奈!大丈夫?なにがあったの?」
「…ごめん…力、はいんないや…あは…。」
「痴漢…。」
「え?」
「痴漢にあったんでしょ?梨奈…さっきの電車の中で。」
「う…うん。でもどうしてわかるの?」
「梨奈の震え具合でわかるよ。初めてだもん。電車から降りてきて震えてる梨奈。」
「瑠美…。あのね…本条さんが、助けてくれたの。痴漢にあった私を…。」
「ウソ!?よかったじゃん!これで一歩前進なんじゃない?」
「終わった。」
「え…?」
「私の恋…終わっちゃった…。」
「梨奈…なに言ってるの?そんなわけないじゃん!」
「だって…だって見られたんだよ?変な人に体触られたところ…もう…本条さんの前に顔出す気ないもん…もう…ダメだよ…告白したって無駄だよ…。」
「梨奈…そんなことないよ。だって守ってくれたんでしょ?だったらきっと『俺が守る』って言ってくれるよ。ね?大丈夫だって…諦めないで…?」
「もういいの。瑠美…クリスマスの合コン…私も行く。」
「りなぁ!大丈夫だって!勇気を出してよ、ねぇ!」
「いいの…。」
−私は、本条さんに見られたことがショックで、恋を終わらせることを決意しました。
あの家庭にいる私は、痴漢から助けてくれたナイトに告白する勇気なんて…なかったのです。
ガタンゴトンッガタンゴトンッ
「私の恋…終わっちゃった…。」
−その日から私は、今まで乗っていた車両を変え、本条さんのいない女性専用車両に
乗ることにしました。本条さんのいない車両…見ない毎日、全てが終わったかのようにただ勉強するだけの日々が…続いてるのでした。
「りーなっ♪」
「瑠美…どうしたの?今日は早いじゃん。」
「えへへ。伝えたいことがあって今日は部活早く済ませて乗っちゃった♪」
「伝えたいこと?なにぃ?」
「合コン♪相手決まったよ☆」
「ほんと?よかった♪クリスマスだよね、人数あつまってんの?」
「それがひとり余ってるんだよねー誰かいない?あっ…雅菜ちゃんとか♪」
「くるかなー?いちおー誘ってみるね。」
「梨奈…。」
「ん?」
「本当にいいの?合コンなんて…。」
「なんで?楽しそうじゃん。あっ…でも怒られるかな…。」
「じゃなくて!本条さん。合コン行って新しい人見つけたら終わりだよ?」
「いいの♪もう…忘れるって決めたんだから。」
−恋をしたい。新しい恋。次はもっといい人を見つけるために。
私はクリスマス…初めて、『合コン』に参加します。楽しみっ♪
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