〜第1話〜
パタパタッ。カチャッ。
「今日もひとりか…この時間暇だなぁー。今日も明日の予習しなきゃ…。」
−塾に早く着いてしまう私はいつもこの暇な時間で学校の予習を済ましています。
家でやんなくていいし、先生に怒られなくて良いし、結構良いことずくめ。
あいつが来るまではだけどね…。
カチャッ。
「うっわ…今日もきた…。もぉー最悪。あー最悪。」
「新垣さん今日も早いねー。俺目当て?」
「はぁ!?なんで?どうして?意味不明!?冗談やめて?」
「そんなに頑なに否定すんなよ…俺たち元恋人じゃんかよー冷たいなぁ。」
「なにが悲しくて元恋人と同じ塾…。予習の邪魔しないでくれる?進学校なんだから。」
「頑張ってんじゃん。俺と別れて進学校行っただけあるよなー。」
「別にあなたと高校進学は関係ないんですけど。」
「冷たい…。あの頃は優しかったのに…。そんなに俺が嫌いなの?」
「予習のじゃま。」
−こいつ…浅香みつるは私の元カレ。中学の時にできた初めての恋人だった。その恋は中学のときに終わったし、今は学校全然違うけどなぜか塾が一緒。
「それに…今度のテスト、あんただけには負けられないからね。」
「ん?勝ったら命令できる権利があるもんなぁ。俺勝つ自信あるよ。」
「あんただけにはもう命令されたくない!」
「なんだよ…。もしかしてまだ俺のこと好きだったりするのー?」
そういってみつるは稲垣のほうに近づいた。
「ちょっ…やめてよ!ふざけないで!」
カチャッ。
梨奈が叫んでいるとドアが開いた。
「…!?」
「あ…梨奈…お取り込み中…だった?」
「瑠美!全然お取り込み中なんかじゃないよ!ほらっ行こっ!コンビニ行くんでしょ?」
「え…あ…うん。」
−私は強引に瑠美を連れて外に出た。
瑠美は、同じ高校に通ってる私の親友。中学と高校、塾も一緒。でもいても全然飽きないし嫌になったこともない。
「みつる君との勝負の約束?」
「うん。勝負。この塾12月の末にさ、大きなテストあるでしょ?」
「あるねーもーすぐだ…!」
「それでその時の総合点で勝負しようって話が前出て。勝ったら相手に命令できるっていう得点つきなんだよねー。」
「それ結構きつくない?」
「うん…でも負けてらんないからさ。みつるにだけは。恋も勉強も…負けらんない。」
「梨奈強気じゃん。じゃーまずは告白だね!片思いの彼に♪」
「う…。」
「まだ恐がってるの?告白するの。」
「だってぇ…振られるの恐いじゃん…。」
−私は告白するのを拒んでしまいます。
今まで二回…彼氏ができた。しかしその二回は相手の気持ちがわかっていたから成功したものでわからずに告白したものは一回も成功したことがなかった。
だから私は…余計告白するのを拒んでしまうのです。
「大丈夫だって!梨奈。梨奈可愛いから絶対振られないって!」
「だって接点もないんだよ?『なにこの女』とか思われたら私…自信ないもん…。」
「純粋だねー梨奈は。」
「瑠美はクリスマス過ごす人いるの?」
「いないよ。だから大丈夫だよ!もしフラれても私がいるしさ!一緒に騒ごうよ♪」
「なに瑠美、もしかして…合コン?」
「あったり♪まだセッティングはできてないんだけど、梨奈もダメだったらくればいいじゃない♪私、合コンだけは失敗したことないからさ!」
「んー。考えとく。」
−瑠美は、年に2回合コンをします。相手は高校生。結構いい人が揃うみたいで、彼氏ができたこともあるそうです。でも私は…合コンなんてできない。だって
あの家庭だから…
キィーッ、カチャッ。
「ただいまー。」
「あっお帰り。お姉ちゃん。今日も遅かったね。ご飯あるよ。」
「雅菜…ただいま。お父さんはともかく…お母さんは?」
「お母さん?部屋で仕事ちゅー。今日も部屋には入るなって言ってるよ。」
「相変わらずか…クリスマス近いのにこの家は殺風景って感じ。」
「そりゃそうだよ。我が家はいつもそうじゃん。あっ、帰ったら報告しろってさ。」
「んーわかった。番号かして。」
「ほい。」
「ってか雅菜…あんたなんで制服なわけ?また遊んできたの?」
「違うよ!家帰ってきて寝ちゃったの。私もさっきご飯食べたんだから…。」
「ならいいけど…。はぁ…疲れた。」
−私の家は結構厳しいと人に言われます。
進学校に通い、こんな遅くまで塾に行ってるのも、その理由のひとつかもしれません。
うちの両親は共働きです。お父さんの収入で全然大丈夫なはずなのに、なぜか共働き。
厳しさも、共働きも原因は…うちの母親にあるのです。
「はぁ…ちょっと一休みでもしようかしら…。」
「お母様…!」
「あら梨奈、帰ってたの?帰ってたんなら報告しなさいよ。」
「申し訳ありません。報告しようと思っていたところです。」
「ちゃんと塾には行ってるようね。」
「塾には毎日、しっかり行っています。もうすぐテストもありますから。」
「テスト?」
「4月から12月までにならった項目のテストです。私の通う塾では大きな…」
「…しっかり勉強して1位をとるようにしなさい。」
「1位…ですか?」
「取れなかったら、家にはいれませんからね。家庭教師でもつけましょうか?」
「結構です…!絶対取って見せます。」
「そう。その言葉、胸に秘めておくわ。それじゃあね。」
「…はい。」
−母は、父の務める会社と提携している大会社の取締役をしています。
父親よりも位が高い母は、うちでも当然仕切り役で、私は母の言いつけには逆らえませんでした。小学校の低学年では優しかった母も、私が6年生になると、中学入試に必死になり、その年から私は母親に敬語しか使ってはいけなくなりました。
中学・高校は進学校…大学はY大。それが母の言いつけ。
私に将来仕事を引き継がせるためです。
「お母さん、お姉ちゃんには本当に厳しいね…最近は私にもだけど。」
「あんたにも?」
「そう。高校は絶対お姉ちゃんと同じ高校に行きなさい。って。」
「へー雅菜。今から勉強したほうがいいよ。塾行けば?」
「ん…でもまだ中1だしぃーそのうちね。」
−雅菜は次女なので、あまり縛られず生活しています。それでもやっぱり、中学は進学校。
普段から遊び人の雅菜には、ついていくのが必死なのに、プレッシャーがないので学校を凄く楽しんでいるそうです。
「私も自由に出来てたらもっと良い恋愛できるのかもな…」
「お姉ちゃん好きな人いるもんねー♪」
「…お母さんに知られたらどうなると思う?雅菜…。」
「付き合えないでしょ…きっと。」
「だよねぇ…それも恐いんだよ…彼氏ができるときって。」
「頑張ってよ、応援してるからさっ。」
「ありがとう。もー寝るわ…お風呂はいってくるねー。」
「うん。」
−そんな不安を抱えながら、私はお風呂に向かいました。
明日…どんな事件が…大事件が起こるとも…知らずに…。
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